サイレント
背は高くなっても中身は変わっていないと思っていた拓海が今は頼もしく見える。

「そういえば兄ちゃん、あの先生元気?」

拓海は枕元でDSを開き、ゲームをやり始めた。

「先生?」

「家に来てたじゃん。兄ちゃんの学校の先生。俺、中学に入ったら先生いるかと思って楽しみにしてたのに、いなかったから」

画面から目を離さず、指を高速で動かしながらよく他のことを考えられるな、と感心する。

「兄ちゃんて、もしかして先生と付き合ってた?」

拓海を見上げるが、拓海は一向に画面から目を離す気配はなかった。

「何で?」

「何でって、何となく。二人ともそうだったのかなって今になってそう思っただけだけど」

「何か根拠がなきゃ思わないだろ。普通。あの人が俺みたいなガキをなんてさ」

「兄ちゃん、それって肯定なの?」

「……違うけど」

あの頃、拓海の前で生徒と先生以上の何かをした覚えはなかった。

樹里も普通にしていたし、一も普通にしていたつもりだ。

そりゃ夜に家を抜け出すことは度々あったけれど。
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