サイレント
「でも兄ちゃんあの先生のこと好きだったのは事実でしょ」

自信満々な拓海の言葉にドキリとした。

「兄ちゃんがあんな風に人に頼ることって普段ないし。先生には甘えてたってゆーか、心許してた」

「甘えてたって……キモい言い回しやめろよ」

ムッとして一は寝返りをうち、拓海に背を向けた。

拓海のくすっという笑い声が聞こえる。

「兄ちゃん、ママに甘えたことないよね。パパにも。いつもしっかりしてて、何でも一人でやっちゃう」

拓海がそんな風に一を見ていただなんて意外だった。
いつも拓海は両親にうまく甘えて、皆から可愛がられる存在。
長男の一は拓海のように振る舞うことなんて出来なかった。

ゲームに飽きたのか拓海はテレビをつける。

「だから、まさか兄ちゃんが今日俺に電話してくるなんて思わなかった」

「は?」

「頼ってくれて正直嬉しかった」

「キモいこと言ってんなって」

男相手に言われて嬉しい言葉ではなかった。

目をつむり、寝てしまおうとタオルケットをかけ直す。

意外にも、睡魔はすぐにやって来た。
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