サイレント
一はもう一度テーブルの上に並べられた料理を見た。

わざわざ家に帰ってから作って持って来たのだろうか。今までの怒りが引いて、何だか肩透かしを喰らった気分だった。
直前までむきになって弟を怒鳴り付けていた自分がバカらしい。

「ねえ、食べていい?」

弟が一のシャツの裾を引っ張った。一は「いいよ」と答えると自分も手を洗ってその料理に手をつけた。

弟がこんなに生き生きとした顔をして食事をしているのを見るのは久しぶりだった。

「味、薄いな」

少し冷めた味噌汁を啜って一は言った。
弟が笑う。

日本食を作らなかった母の料理とも、完璧に栄養を計算された給食とも、コンビニの人工的な味のする弁当とも違った夕飯だった。

一口飲み込む度に人の温もりがしんみりと、胸に染み込んでいくような気がした。
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