サイレント
一の家から市立病院まではバスを乗り継いで来なければならない上に、かなり時間がかかる。

一は樹里の腕を振り払うと、樹里から顔を背けた。

「俺が迷惑なら、声かけるなよ」

「……」

「車に乗せてもらったら、嫌われてないかもしれないって、変に期待する」

一の言うことはもっともだ。

自分から突き放しておいて、結局放っておけずに自分から声をかけるなんて、残酷なことをしている。

「嫌いじゃないよ。もう好きじゃないだけ。知り合いとして今のハジメくんを歩いて帰らせるのが気分悪いだけ」

こんな台詞、卑怯だ。

そうわかっていて卑怯な台詞を吐く自分が嫌いでしょうがない。

「お願いだから乗って」

樹里は振り払われた手でもう一度一の腕を掴むと、一を車まで引っ張って行き、強引に後部座席に寝かせた。

「家に着くまで寝てていいよ」

一が大人しく目をつむるのを確認して、樹里は一の家まで車を走らせた。
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