サイレント
一の瞳が不安そうに揺れていた。

「うん。頭がね、おかしいからまともになる薬もらってるの」

樹里がそう茶化すように言って笑うと一は怒ったように「はぐらかすなよ」と樹里を睨みつけた。

「はぐらかしてなんかないよ。ハジメくんが1番良く知ってるでしょ。私がちょっとおかしいって」

樹里は未だに傷痕が残る手首を一の前に出した。

「だからハジメくんが心配するような病気じゃないよ。残念でした」

今日の自分はちょっと喋り過ぎだ。

一には自分のことをとやかく話すつもりはなかった。

「じゃあね。風邪うつされると迷惑だから早く降りて」

また、一を突き放すようなことをわざと言う。

「言われなくても車に居座ろうだなんて思ってないから安心して」

そんな樹里に一は真顔で言い、あっさりと車を降りた。

ドアが閉まると樹里はすぐに車を走らせる。

今度こそ一の姿を視界に入れることなく樹里はそこから立ち去った。
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