サイレント
前のアパートで暮らしていた時は帰って来たら必ずビールだったのに、病気をして以来父はアルコールの類を一切飲まなくなった。

アルコールだけじゃなく、日常生活において体に良くないことはしないように心がけているように見える。

父は冷蔵庫の中を見ると顔色を変えた。

「……誰か来たのか?」

多分拓海が入れて行ったものを見て言っているのだろう。

「母さんじゃないよ。拓海」

「んなことわかってるよ。あいつがここに来るわけない。そっか。拓海が……けどこのセレクトはあいつだろ。病気って言うと必ずこの組み合わせだ」

「……随分母さんのこと気にしてるね。たまに会ってんだろ?そんなに気になるならさっさとまた一緒に暮らそうって言えばいいのに」

父は烏龍茶をグラスに注いで冷蔵庫を閉じた。

おいしそうに一気に飲み干して雑炊をレンジで温める。

「その方がお前にとっても都合がいいし?」

「何言って」

「樹里ちゃんが割って入るすきなくなるもんな」

父は皮肉っぽく言って笑った。

一は問題集を閉じて枕に頭を沈める。
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