サイレント
正直父親と恋愛絡みの話をするのは好きじゃない。
自分のそういう部分を見せるのは勿論のこと、父のそういう部分を目の当たりにするのも苦手だった。
一にとって父と母は父親、母親という生き物であって、男と女として愛し合っているとか、父が他の女とややこしいことになっているとか、考えずに済むのならそうしたい。
ましてや、樹里と父のツーショットなんて想像でも願い下げだ。
父にその気がないのが唯一の救いだった。
「まあ、お前に心配されなくてもお前が高校卒業したらちゃんとするよ」
ピー、と電子レンジが鳴って会話が中断される。
一は携帯電話を開いた。中学の時に樹里からもらった革のストラップはずっと一の携帯にぶら下げられ続け、年期が入った革は良い味を出して来ていた。
ichiと刻まれた自分のあだ名。
転校してからはもっぱら芹沢と苗字ばかりで呼ばれていたのでたまに相沢からイチと呼ばれると懐かしい。
そう呼ばれると一気に中学の時の記憶が鮮明に蘇る。
浅はかで、愚かで、でも幸せだった時間。
自分のそういう部分を見せるのは勿論のこと、父のそういう部分を目の当たりにするのも苦手だった。
一にとって父と母は父親、母親という生き物であって、男と女として愛し合っているとか、父が他の女とややこしいことになっているとか、考えずに済むのならそうしたい。
ましてや、樹里と父のツーショットなんて想像でも願い下げだ。
父にその気がないのが唯一の救いだった。
「まあ、お前に心配されなくてもお前が高校卒業したらちゃんとするよ」
ピー、と電子レンジが鳴って会話が中断される。
一は携帯電話を開いた。中学の時に樹里からもらった革のストラップはずっと一の携帯にぶら下げられ続け、年期が入った革は良い味を出して来ていた。
ichiと刻まれた自分のあだ名。
転校してからはもっぱら芹沢と苗字ばかりで呼ばれていたのでたまに相沢からイチと呼ばれると懐かしい。
そう呼ばれると一気に中学の時の記憶が鮮明に蘇る。
浅はかで、愚かで、でも幸せだった時間。