サイレント
樹里のアパートへたどり着くと一は迷わず樹里の部屋番号を押して呼出した。

まだ寝ているかもしれない。

反応がなくてもう一度押す。諦めずに何度も繰り返し押していると、しばらくして樹里の声が聞こえた。

『……こんな時間に、何』

「ジュリ、開けて」

一は自分の姿を写しているだろうカメラを見つめた。

『だから、何で。何しに来たの』

簡単に開けてくれないことなんて始めからわかっている。

一は自分の携帯を取り出し、液晶画面をカメラに写るように掲げた。

「これ、書いたのジュリ?」

返事がない。

「ジュリなんだろ?開けてよ」

『……そんなの、知らない』

「嘘。他に誰がこんなの書けるんだよ。偶然にしたって出来過ぎてる」

『読んだの……?』

樹里の声から力が抜けたようだった。

「読んだ。開けて」

そう言い、じっとカメラを見つめて待っていると、返事の代わりに自動ドアが開く。

一は中に駆け込み、一気に階段を上った。

静かな朝に一の慌ただしい足音が響き渡る。

一は最上階まで上りきると、樹里の部屋のインターフォンを押した。
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