サイレント
樹里はそのまま部屋の奥まで行ってベッドに潜り込む。

当たり前だけれど樹里はパジャマ姿で化粧っ気もなく、髪も乱れていた。

一はスニーカーを脱いで部屋の中へ入る。

枕元まで行き、樹里を見下ろした。

「朝早くに起こしてごめん」

樹里は青白い顔で目をつむっていた。

「どうせ寝てなかったから気にしないで。それより耳元で騒がないで」

辛そうに眉間に皺を寄せ、タオルケットを頭から完全に被ってしまう。

こんな状態で後数時間後に仕事へ行くつもりだろうか。

寝ていないのは一も同じだけれど、樹里の方が何倍も具合が悪そうだ。

話がしたくて飛び出して来たのに、こんな様子の樹里に追い撃ちをかけるような話題は躊躇われる。

「何よ。さっきの小説のこと聞きに来たんじゃないの?」

「え?あ、うん」

「あんなもの、さっさと消しておけばよかった……。よりにもよってハジメくんなんかに見られるなんて、死んだ方がマシ。最低」

一はタオルケットを被ったままの樹里の後頭部に手をのばした。

触れてもいいものか。

迷いながら手を宙に浮かせたまま拳を握る。

「続きは……ないの?」
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