サイレント
と、同時にいきなり保健室の扉が開く。

もう後ちょっと前に出ていればぶつかってしまっていたくらいの位置に樹里がいた。

「わ!ご、ごめん!」

樹里は大袈裟に慌てて後ろに飛びのいた。
一も一歩後ろに下がる。

心なしか樹里の顔が赤かった。それをみとめたとたん胸やけのような症状が一を襲った。

樹里は一の横を通り抜けるとベッドに横たわる女の傍へ行き、雑誌を取り上げる。

「あー。まだ見てたのに!」

「もう終わり!ずる休みはやめて午後からちゃんと授業出なきゃ、私が先生達に嫌味言われるんだからね?」

「ケチー」

「はいはい。ほら出てって」

だらしのない妹を叱る姉のような図だった。こんなにもしっかり話す樹里を見るのは初めてな気がする。
一といるときの樹里はどこか憂鬱そうで、すぐに目を逸らす。

だからずっと嫌われていると思っていた。
ろくに話したこともない相手に嫌われるのは初めてで、正直一は樹里が苦手だった。

けれど最近ではそれが一の被害妄想だったんじゃないかと思う。
一なら嫌いな相手に金を貸したりしないし、ましてや夕飯をさし入れたりしない。

でも、だったら何故樹里はすぐに目を逸らすのだろう。

一年の女はぶつぶつ文句を言いながらも渋々保健室を出て行った。
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