サイレント
「あるわけないでしょ」

面倒臭そうな、冷たい樹里の声。

遮光カーテンの隙間から朝日が差し込んで、少しずつ部屋の温度が上がって来ていた。

「何で。あそこで終わり?」

「終わり。終わったでしょ。私たち。あれ以上書くことなんてないし、書きたいとも思わない」

「じゃあ何で書いたの?消さないでとっておいたの?」

もぞ、と樹里が寝返りを打った。

タオルケットから半分顔を覗かせる。

化粧をしていないとあどけない少女のような顔に見えた。

「誰にも言えないから書いて憂さ晴らしをしてただけ。消さなかったんじゃない。消すのを忘れていただけ。何にでも特別な意味をつけたがらないで」

「パスワードにも意味はないの?」

「……ない。あれなら誰にもバレないと思っただけ」
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