サイレント
一は何だか自分の人を見る目に自信が持てそうな気がした。
それはもちろん錯覚だろうけど。自分は今、不幸だけれど完璧に神から見放されたわけではないのかもしれない。そう思った。

けれど、どうしよう。これからも毎日飯を作ってくれ、と自分から言えるほど一は我が儘になりきれない。

借りた金だって、ああは言ったものの、本当に返せるかどうかわからない。
今の一には保証出来るものがなにもない。

唯一保証出来るのは自分のこの身一つ。

しばらく黙っていた樹里が何か言いたげに一を見た。昼休みは後10分。
一は樹里を真っ直ぐに見つめ返す。

樹里の頬がほんのり色づいた。

「あの、また」
「また作って。うちのキッチン使っていいから」

一瞬前まで言えないと思っていた言葉があっさりと口をついてでた。
それはまるで何物かが乗り移ったような感覚で、一は驚いた。

樹里も驚いたように目を見開いている。
綺麗にアイシャドーが塗られた二重瞼は一の一重の目とは大違いで、感情が読み取り安い。

一はこの一重のせいで「怖い」だとか「生意気」だとか言われることも少なくない。
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