サイレント
一は何だかむず痒い気持ちになってオムライスを口一杯に放り込んだ。

外は雨風になってきており、窓ガラスがガタガタと揺れる。

「先生歩いて来た?」

ふと気になって、一は樹里に尋ねた。

「あ、うん。車が停まってるとヤバイかなって」

「帰り、大丈夫?何なら送るけど」

「え!?あ、いいよ別に。近いから平気」

樹里は全力で否定した。

「……でも外凄いし」

自分が引き止めた手前、そういう訳にもいかない。第一まだ、樹里の望むことを何一つできていなかった。
これでは甘えてばかりのガキだ。
そんな格好悪いこと、してたまるものか。

さらに弟は樹里が帰ろうとするたびに「まだいて」としつこくせがむため、一時間、二時間、と時間が過ぎる。

そのうち外は酷いことになり、一でも外に出たくないような大荒れになった。
きっと傘なんてさしても意味がない。

しかも樹里をしつこく引き止めた張本人はソファで寝てしまうときた。

一は窓の外を覗き込み、カーテンを閉める。
キッチンでは樹里が食器を洗っていた。その横顔はやや緊張で強張っていて、青ざめているように見える。

ヒュー、ガタガタ。
ヒュー、ガタガタ。

背後で窓が揺れる。
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