サイレント
一は一歩前に進んだ。
ぴくり、と樹里の顔が引き攣る。何故そんなに怯えたような仕種をするのかといぶかしむ。
けれど、それより気になるものが一の目に映り込んだ。
それまで樹里はずっと太いバンドの腕時計をしていたのだが、水仕事のために外していた。
それ自体は別段どうってこともないのだが、一はその手首に痂になった赤茶色の数本の線があるのを見つけてしまったのだ。
あれって……。まさか。
変な考えが頭に浮かぶ。樹里は無心に皿を洗い続けていて一を見ようとしない。
聞いてはいけない気がした。
聞いたら、多分、何かが壊れる。壊してしまう。
相手はまがりなりにも先生だ。友達でも家族でもない。
リストカットと決まったわけでもないが、でも、他にもっともな理由も思い浮かばない。
樹里のプライベートに特別興味があるわけじゃない。けれど、死なれたら困る。
咄嗟にそう思った。
樹里が最後の皿を洗い終え、食器乾燥機に入れた。
「あの、じゃあこれで、帰るね」
樹里の気まずそうな声が、二人だけの部屋に妙に大きく響いた。
ぴくり、と樹里の顔が引き攣る。何故そんなに怯えたような仕種をするのかといぶかしむ。
けれど、それより気になるものが一の目に映り込んだ。
それまで樹里はずっと太いバンドの腕時計をしていたのだが、水仕事のために外していた。
それ自体は別段どうってこともないのだが、一はその手首に痂になった赤茶色の数本の線があるのを見つけてしまったのだ。
あれって……。まさか。
変な考えが頭に浮かぶ。樹里は無心に皿を洗い続けていて一を見ようとしない。
聞いてはいけない気がした。
聞いたら、多分、何かが壊れる。壊してしまう。
相手はまがりなりにも先生だ。友達でも家族でもない。
リストカットと決まったわけでもないが、でも、他にもっともな理由も思い浮かばない。
樹里のプライベートに特別興味があるわけじゃない。けれど、死なれたら困る。
咄嗟にそう思った。
樹里が最後の皿を洗い終え、食器乾燥機に入れた。
「あの、じゃあこれで、帰るね」
樹里の気まずそうな声が、二人だけの部屋に妙に大きく響いた。