サイレント
得体の知れない悪魔達が、自分達を弄び、楽しんでいる。

「先生、何か言って。俺にして欲しいこと」

樹里の目が見る見るうちに充血していく。
涙が出ないのが不思議なくらいだ。

「……言えない」

「何で?言えないってことは、あるんだろ?して欲しいこと。言って」

ぶんぶんと樹里が首を振った。

「弟に、電話して迎えに来てもらう」

「先生っ」

「ごめんね……明日からやっぱり来れない」

そう言ってしゃがみ込んだ樹里は鞄を探り始めた。
携帯電話を手にしてどこかに電話をかける。

一はそれをさせまいと携帯を取り上げ、通話を切った。

「やだっ」と樹里は一から携帯電話を取り返そうと手を伸ばす。一はその手を軽く払った。

「困るよ、先生。そんなの、俺すげえ困る」

「だって、」

「来てよ。明日も。それに光熱費とか授業料とか、食費とか。先生がいないと俺ら野垂れ死にするんだよ。先生は俺を見捨てんの?」

「だからそれは担任の先生に……」

「今更?」

「お母さんも、そのうち……帰って来るかも……」

「何を根拠に言うの?」

どこにそんな保証が?何の役にもたたない父親も、あてにならないのに?

その場凌ぎに大人が言うことなんか信用出来ない。
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