サイレント
「ごめんね」

樹里は呆然と立ちすくむ一にそう言い残すと物凄い早さで家を出て行った。

追い掛ける余裕なんかどこにもなかった。

一はただ、今起こったことが現実か夢なのか判断もつかず、フローリングに残った樹里の涙だけを見つめた。それが今しがた起こったことを事実だと裏付けるように光っていた。

こんなのってあんまりだと思う。

他の同級生は今頃台風にワクワクし、のほほんと少年漫画なんか読んだりしているはずなのに。

何で俺だけこんな目に会わなきゃならない?

俺が何をしたってんだ。

一は胸を掻きむしりたくなるほどの苛立ちを抑え切れず、思いきり壁を殴り付けた。ドスンと鈍い音が響く。

体が凄く熱い。

台風と、オムライスと、リストカットと、突然の告白。

そして、手の中の携帯電話。
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