サイレント
これまで男友達とばかり遊んで部活に明け暮れていた一には、女の子の上手い扱い方なんてわからない。

けれど今後の生活がかかっていると思えばどんなに照れ臭いことだってやってのけることが出来る気がした。

「先生、俺、先生のこと」

一がそう言かけただけで樹里の表情があっという間に悲しげに歪み始める。

「ごめんなさい」と消え入るような声で何度も一に謝った。

これじゃあ埒があかない。

一はどうにでもなれという気持ちで謝り続ける樹里を抱きしめた。

腕の中で樹里の体が瞬間冷凍されたように固まる。

驚いたことに、腕の中の樹里はとても小さく頼りない存在だった。
身長も特別小さいわけではない樹里が、柔らかくて、簡単に骨を折ってしまえそうな程弱い生き物のようだった。

「先生、謝んないでよ」

一は樹里を抱く腕に力を入れる。

「先生が望むなら俺はずっと先生の傍にいるし、俺のこと好きに利用していいよ。だから俺を助けて」
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