サイレント
弟はこの数カ月で身長がぐっと伸びた。
なんだか少し強くなったように見える。

逆に一はどんどん弱くなる。樹里の傍で弱く、甘えたガキみたいに。
樹里もまた、とても弱い。

樹里に借りた金はすでに十万を超えていた。
父からは相変わらず家賃が振り込まれるだけで何の連絡もない。

一と樹里は弟の前では特別仲良くはしなかった。

弟と三人でご飯を食べ、勉強をし、樹里は一旦家に帰る。

そして弟が眠ったのを確認すると一は家を出た。
樹里の家は本当に近かった。けれど一が向かうのは樹里の家ではなく、海岸へと続く道の途中にある神社で、そこで樹里の車へ乗り込んだ。

一達はいつも人気のない場所へ車を走らせて、たどり着いた先で後部座席へ移動し、寄り添って座った。

一の肩に樹里の頭が乗る。

一はそんな樹里の腰に手を回して目をつむった。

そうやって何時間もずっと、同じ空間の中で過ごし、その時だけは張り詰めた心が癒される気がした。

もう、これは手放せない。卒業しても、大人になっても、自信はあまりないけど、こうやっていたい。
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