サイレント
「先生、俺部活辞める」

「え?」

「もうずっと行ってないし、別にエースでも何でもないし、どうでもいいや」

寒い車内で一は樹里をホッカイロがわりにして抱きしめた。

「本当に……?私のせい?やりたいなら部活やりなよ。今しか出来ないよ?」

「うん。別にしたくないからいいんだ」

樹里のシャンプーの香りはもう完璧にインプットされている。
早く大人になりたい。

「先生……」

「何?」

「もうすぐ、クリスマスだね」

「うん。来年は受験だね」

一は樹里の髪の毛に指を差し入れながら、樹里の肩越しに外を眺めた。
成績はそれなりに保っている。このままならこの辺りで1番の進学校を狙えると担任から言われた。

進学については今も悩んでいる。このまま母が戻ってこなければ、いや、例え戻って来たとしても高校へ行く余裕なんてどこにもない。

「俺、中学卒業したら働こうかな」

一がそう呟くと樹里は勢いよく一から距離を取り、一の顔を見た。

「駄目だよそんなのっ!今時高校くらい出てなかったら絶対苦労するよ?!大学は無理でも……高校三年間くらい、バイトしたり、色々して何とかなるよ!私だって働いてるしっ」

「高校の三年間もお金貸してくれるの?」

樹里はゆっくりと頷いた。
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