サイレント
「そう……そんなに俺のこと好き?どこがいいの?俺なんか、他の生徒とどこが違う?」

一時期、樹里はうんと年下の男が好きなだけの、そういう趣味の持ち主なのかと疑ったこともある。

今も少し、どこかで疑っている。一が大人になるにつれて、樹里は一に興味をなくし、また新しい生徒を好きになるんじゃないか。そういう風に思わずにはいられない。

「わからない。私だって最初は認めたくなかったけど。でも、気付いたら好きで、どうしようもなくなってた」

「こうやってお金のために先生の傍にいるだけの男でも?」

「……ハジメくんがいいの。他の人なんかいらない」

俺はずるい。樹里の気持ちを利用して、金をもらって、家のことまでさせて、その見返りとしてこうやって傍にいてやるんだって体裁を取り繕いながら実のところ自分が樹里といることで癒されている。

貰ってばかりで本当は何も与えてなどいない。

「先生、」

好きだと言わせておいて、自分は樹里に好きだなんて言いもせず、抱きしめるまでで精一杯。

だってここでヤッたらそれこそヤりたい盛りのサルが自分の欲望を満たすためだけに金をもらってヤるための口実にしているにすぎない。
樹里がそう思わなくても一は自分自身に否定しきれない。
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