サイレント
樹里は見るともなしに雑誌をめくりながら時間を潰す。
昨晩自分の腕を切りつけたばかりの樹里はその傷を隠すように薄いカーディガンを羽織っていた。真夏でも長袖を手放せない樹里にとっては馴れたものだが、初めて樹里に会う人間は一瞬眉をひそめる。

九月に入ったばかりの校内は多少冷房が効いているものの少し蒸し暑かった。

何度も目を通したファッション雑誌に飽き飽きして席を立とうとした瞬間、がらりと控え目に保健室の扉が開かれ樹里はそちらに目を向けた。

体育でけが人でも出たのだろう、そう思って振り向いた樹里は一瞬息を止めた。

真黒な制服のズボンにまっしろなカッターシャツを着た男子生徒が青ざめた顔でそこに立っていた。

「ど、どうしたの?」

できる限り普段どおりの声を出そうとして失敗した樹里は噛んでしまった。
できることなら今日は顔を合わせたくない生徒が相手であるので無理はないことかもしれないけれど。

「すいません、なんか風邪気味で」

そう答えた生徒に樹里は平静を装いつつ、「そう、熱はある?とりあえずこれ腋にはさんでそこのベッド使って」と言って体温計を手渡す。

受け取ろうと手を出した彼の指先が樹里の指に触れ、思わず体温計を落としそうになった。

彼はそれを何気ない顔で受取り、保健室に並ぶベッドの一番窓際のものに腰かけた。

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