サイレント
教室を出ると途端に寒い空気が一を纏う。
中学校の廊下は冷え冷えとしていた。学生服の上にダウンジャケットを羽織り、一は階段を降りた。

途中、保健室の中を階段のガラス窓越しに覗く。
中庭を挟んで向こう側に見える保健室の窓の奥には、なにやら片付けをしている樹里の姿が見えた。

立ち止まってその様子をしばらく観察する。
樹里は一に見られていることにも気付かずに書類を片付けたり、ベッドのシーツを直したりしていた。

一は階段に腰を下ろした。面談の順番が後の方だったため、校内に残っている生徒は少なく、一が階段に座っていてもそこを通る生徒など殆どいない。

ひんやりとした階段は一の内から溢れ出す熱を奪い去っていくようだった。

一は窓の外に目を凝らす。学校で見る樹里は普段よりもずっと年上で、遠い。別の次元で生きている人間のようだった。

しばらくそうやって樹里の姿を見ていると、保健室に誰かが入って来た。

一は一階の保健室を見下ろしているため、保健室に入って来た人物の足しか見えなかった。

紺色のジャージのズボンにスリッパ履き。
それで男性教諭だということだけは察しがついた。
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