サイレント
その体育教師、尾垣、通商「ガッキー」は今年から講師としてこの学校にやって来た。女子生徒から「カッコイイ」だの「面白い」だのキャーキャー騒がれているけれど、幸子は尾垣のことが大嫌いだ。

学校では爽やかぶっているけれど、幸子は普段の尾垣を嫌という程知っている。むしろ知らざるを得ない関係だった。

だらし無くて女たらしでスケベ。
歩いているだけでセクハラだ。

しょうがなく再び寝転がりながら幸子は二人の会話に耳を傾けた。

「金城先生まだ残ってたんですか?」

「はい。まだ生徒たちも何人か残ってるし」

「ふーん。大変ですね。保健室の先生も」

幸子がここにいることにも全く気がつかない様子で尾垣は上機嫌だった。
どうせ大方樹里に目をつけてやって来たに違いない。

幸子は心の中で「振られろ!」と念を送った。

「つか金城先生なんで先週の飲み会不参加だったんすか?俺楽しみにしてたのにがっかりですよ」

「あー、ちょっと用事があって」

「もしかして彼氏っすか?」

「まさか」

樹里の声が少しトーンダウンする。
幸子はもう一度起き上がってカーテンの隙間から覗いた。

「じゃあ今度俺とどっか行きません?俺のダチがシェフしてて、K市に店あるんすけど、奢りますよ。つーか携帯教えてくださいよ」
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