サイレント
うざい尾垣を視界に入れないように樹里の姿だけを見つめる。

樹里はしつこい尾垣の質問を遠回しにかわしているが、尾垣は少しも引かずに攻めの姿勢で口説きにかかっていた。

「あ、そうだこれ俺の携帯の番号。いつでも暇な時にかけて下さい」

さらに小さなメモ用紙を樹里に強引に渡し、樹里の番号をどうにか聞き出そうと粘っている。

幸子は見ていてだんだん苛々してきた。
あんなやつ冷たく追い返せばいいのに。いっそのこと幸子が出ていってあいつを驚かせてやろうか。

そう思ってカーテンに手をかけた。
その時、再びガラリと今度はやや乱暴に保健室の扉が開いた。

バンッと扉が柱に当たって跳ね返る音が響く。

驚いた幸子は思わずギクリと肩を震わせた。視線をさ迷わすけれど幸子の位置からでは扉が見えず、誰が来たのかわからなかった。

樹里は驚いた顔で扉の方を見つめていた。

「……びびった。えーっと芹沢?お前何してんの?面談は?」

最初に侵入者へ言葉を発したのは尾垣だった。
幸子の胸が高鳴る。芹沢。芹沢一。

「終わりました」

「あ、そう……で、怪我でもしたか?部活は?お前野球部だよな?」

「辞めました」

幸子は一の返事に驚いた。一が部活を辞めたことを今初めて知った。
尾垣も「えっ、マジで?」と馬鹿丸出しで驚いている。
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