サイレント
何だか保健室の中に不穏な空気が流れていた。

一がどんな様子でいるのか幸子にはわからないけれど、ガッキーが「あ、じゃあ俺サッカー部の練習見に行かなきゃなんないんで行きます」と急に慌てた様子で保健室を出ていってしまった。

しん、と保健室が静まり返る。

幸子はもっとよく見えないかと身を乗り出した。首を捻ってカーテンの隙間を覗く。狭い視界はそれでも一を捉えることができない。

「先生、」

そう一が何か言いかけた時、気まずそうに俯いていた樹里がはっと思い出したように幸子のいるベッドを振り返った。

まずい!

咄嗟に幸子はシーツを被って横になった。
シャッとカーテンが開かれ、「早瀬さん!もう4時だよ!」と樹里の声が降ってくる。

幸子はわざとらしく欠伸をして起き上がった。

「えー、もう?」

「面談でしょ?時間遅れるとますます面談終わるの遅くなるよ」

「はいはい」

返事をしながら保健室の扉に目を向けると一が少しだけ驚いたように幸子のことを見ていた。
一もどうやら保健室に生徒がいるだなんて思っていなかったらしい。

幸子は携帯をスカートのポケットにしまうと名残惜しい気分で保健室を出た。
少し廊下を歩いてから保健室を振り返る。保健室の扉はすでに閉められ、一の姿は消えていた。

幸子の中でドキドキと妄想がさらに膨らむ。

あの中で今二人がどんな会話をしているのか、気になってしょうがなかった。
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