サイレント
誘惑に負けた幸子は足音を忍ばせて保健室へと引き返した。
面談なんて遅れたところでどうだっていい。どうせ不愉快なことしか言われないのだからいっそのことサボってしまいたい。

幸子は扉に耳をくっつけてじっと息を潜めた。

何も聞こえない。
けれど何も聞こえないのが一段と怪しく感じられる。

何をしているんだろう……。
保健室のカーテンが開け放してあったのを思い出した幸子は扉から離れ、反対側の校舎へと走った。

まさか校内を走る日が来るだなんて思わなかった。
廊下を走るなんてダサいし、ガキくさい。
けれどどうしても気になってしまう。

反対側の校舎へ渡った幸子はちょうど保健室の真正面の廊下の窓を覗き込んだ。

ドクン、と心臓が大きく鳴った。

さっきまで堂々と開かれていたカーテンが、全て閉められていた。

まさか、本当に?
今まで単なる妄想として楽しんでいたものが急に現実身を帯びて来た。

掌にじんわりと汗をかく。

嘘。本当にそうだったらどうしよう。すごい。

期待と興奮が幸子の胸をドキドキさせた。
幸子はしばらくそのまま反対側の校舎から保健室を観察していたが、ついに保健室のカーテンが開かれることはなかった。
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