サイレント
「先生、それ何?」

早瀬を追い出し、窓のカーテンを全て閉めると一が樹里の手に持っていたメモを指差した。

「え。あ、これ?」

驚いた。学校ではお互い極力顔を合わせないようにしていたはずなのに。
一はじっと樹里の手元を見つめたまま視線を逸らさない。樹里はそのメモを一に見えるように差し出した。

「携帯の番号だって」

「かけるの?」

「多分かけないと思う。かける用事もないし」

樹里がそう答えると一はホッとしたように息をついた。そんな一の様子にあるはずのないことを期待してしまう自分が情けなくて許せない。

一は単にお金が必要なだけで、お金を貸してくれる存在として樹里を必要としているだけだ。
それは今でも十分わかっているつもりで、樹里はそんな一の気持ちを利用しているに過ぎない。

こんな事がバレたら一も樹里もただじゃ済まされない。

なのに一から言われるがまま毎月お金をおろして渡してしまうのは樹里の心が弱いせいだ。

アルコールの摂取量も煙草の本数もこの数ヶ月で倍に増え、仕事中に我慢できずに煙草に手を伸ばすなんて事が何度あっただろう。

自傷癖も相変わらずで、カーディガンの下の腕は見せられない。

こんな自分を一に知られたくなくて樹里はますます追い詰められる。
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