サイレント
「ちょっと、友達のとこ」
「歩いて?近所に誰かいたっけ?」
「いるよ」
「ふうーん」
一足先に大学の冬休みに入っていたテツは一日ぐうたらしていたのか、スウェット姿のままだった。
髪の毛はボサボサで普段はつるつるの顎にうっすら髭が伸びている。
せめて一がテツくらいの年齢だったら。いや、せめて高校三年生くらいだったらここまで悩まずにすんだかもしれないのに。
樹里がそのまま玄関を開けるとテツが「樹里!」と呼んだ。
樹里は首だけ振り返り、テツを見つめた。
「その友達の男に伝えて。樹里を泣かせたら俺がぶっ殺すって」
にっ、と歯を見せて笑うテツは寒そうに腕を組んで、樹里に手を振った。
「テツ……」
さすが。テツは昔からなんでもわかっている。
頼りない姉のせいで迷惑を被る事なんて数え切れないくらいあったはずなのに、テツはいつも樹里に優しい。
「ありがとう」そう一言だけ言い残して樹里は外へ出た。
一歩足を前に踏み出す度、切なくて泣きそうになる。
痛いくらいの冷気を体内に取り込んで樹里は一の家へと急いだ。
「歩いて?近所に誰かいたっけ?」
「いるよ」
「ふうーん」
一足先に大学の冬休みに入っていたテツは一日ぐうたらしていたのか、スウェット姿のままだった。
髪の毛はボサボサで普段はつるつるの顎にうっすら髭が伸びている。
せめて一がテツくらいの年齢だったら。いや、せめて高校三年生くらいだったらここまで悩まずにすんだかもしれないのに。
樹里がそのまま玄関を開けるとテツが「樹里!」と呼んだ。
樹里は首だけ振り返り、テツを見つめた。
「その友達の男に伝えて。樹里を泣かせたら俺がぶっ殺すって」
にっ、と歯を見せて笑うテツは寒そうに腕を組んで、樹里に手を振った。
「テツ……」
さすが。テツは昔からなんでもわかっている。
頼りない姉のせいで迷惑を被る事なんて数え切れないくらいあったはずなのに、テツはいつも樹里に優しい。
「ありがとう」そう一言だけ言い残して樹里は外へ出た。
一歩足を前に踏み出す度、切なくて泣きそうになる。
痛いくらいの冷気を体内に取り込んで樹里は一の家へと急いだ。