サイレント
恥ずかしさと惨めさに顔から火が出そうだった。

一が空になった皿を持って席を立つ。
一体何を考えているんだろう。樹里には一の考えていることが何一つわからなかった。

「先生ってさ、臆病だよね」

流し台の前に立つ一は樹里を責めるように言った。一は樹里に返事を求めるわけでもなくそのままバスルームへと消えて行く。

胸に鈍い痛みが広がる。

後に残された拓海がきょとんとした顔で樹里を見ていた。

樹里はごまかすように笑って「おいしい?」と拓海に尋ねた。

拓海は素直に「おいしい」と答える。

「お母さんの料理はどんなだった?」

「んー。なんかね、お母さんは日本の料理作れなかったからいつもインド料理だったよ。たくさんのスパイスを混ぜて、カレーだけど、給食のとは違うヤツ」

「そうなんだ。すごいね」

「うん」

母親の話をこうやって聞くのは初めてだった。
今まで何となく一の地雷を踏みそうで意識的に避けていたのかもしれない。

「……お母さん、いつになったら帰ってくるのかなあ」

拓海が待ちくたびれたような顔をして呟いた。
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