サイレント
先月25歳の誕生日を迎えた樹里は中学二年生、つまり14歳の彼と11歳も違う計算になった。

自分に対する嫌悪感と、絶望が胸の中をいったりきたりする。

静かにベッドに横たわる彼は時折苦しそうに咳をした。

彼の名は芹沢一、セリザワハジメ。
時折同級生が彼を「イチ」と呼ぶのを校内で耳にする。

初めて彼とまともに顔を合わせたのは去年のこと、一学期が始まってしばらくしてからのことだった。

不自然なくらい真っ黒で切れ長の瞳をした彼の視線を浴びた瞬間、ドクリと樹里の心臓が波打った。

彼が純粋な日本人でないことを知ったのはそれよりもっとずっと後のことで、それは保健室にサボりに来た数人の女の子達がしていた噂話が情報減だった。

いわゆるハーフというやつで、彼の母親はインドかどこかの人であり、日本語があまり上手くない。

父親は県庁に勤めているとか、そんなことを耳にした。

兄弟は小学生の弟が一人。


「ゲホッ、ゴホッ」


段々と彼の咳が酷くなるのにつれ、少し心配になってきた樹里は今度は純粋に「やっぱり家に帰った方がいいんじゃない?」と尋ねた。
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