サイレント
「先生は俺を好きだって言うけど、だからどうして欲しいとか言わないよね。絶対。好きだってただ言われたって、わかんないし、困る」

一は疲れたようにため息を吐いた。

「先生は好きだって俺に言って、俺にどう返事して欲しいの?」

表情が見えないせいで言葉に重みが増す。
樹里は手にした携帯灰皿をテーブルに置き、前へ進み出た。

俯いたままの一の頭を両手で挟み込む。

「……言ってもいいの?」

一はじっとしていた。

「言えば、ハジメくんは逆らえないでしょ?……だってお金が必要だから。だから私が何かを強要すればそれは取引というより命令に近くなる」

逆らえない一を、そうと知ってて樹里が何かを望んで従わせるのは間違っている。

いや、ただそこまでの勇気がなくて言い訳をしているだけかもしれないけど。

「言ったらもう、引き返せないよ」

「先生は引き返したいの?早く普通の恋愛をして、結婚したいとか言う?」

一の手が樹里の腕を掴み、頭から引きはがすようにした。タオルがはらりと床に落ちる。
一と目が合った。

「もう十分、普通じゃないんだからさ。前にも言ったよね。なんでもアリだって」

深い瞳に魅入ってしまう。この瞳に見つめられるともうダメだ。
理性も常識も、何もかも手放してしまいそうになる。

たかが、14歳の男の子なのに、どうしてこんなにも大人びて、色気があるんだろう。
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