サイレント
「私ね、ハジメくんが欲しいの。ハジメくんさえいれば、何もいらない」

抗うことを止めればいとも簡単に沈んで行ける。

ゆらゆら漂う水の底に沈めば、もう二度と地上に戻ってくることはできない。

「知ってるよ、そんなこと」

一が苦しそうな顔をしたのは一瞬だった。
求め合うように唇が重なる。

これがつかの間の幸せだということを完全に忘れていた。

別れの時が近づいているだなんて思いもせず、樹里は一の背に腕を回した。
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