サイレント
兄は幸子のいるベッドに腰掛けると幸子の頭を乱暴に撫でた。

「お前さあ、髪、黒くしろよ。先生達に評判悪いったらありゃしねーし。損すんのはサチだぜ?」

「嫌。黒いとダサいんだもん」

「んなことねーって。正直そこらの生徒より可愛いし」

「セクハラ!!」

「何でだよ!」

幸子は兄の手を振り払うと寝転んで再び携帯の画面を見つめた。
最近、例の小説の更新頻度が少ない。

ふと思い出して兄を見上げる。

「何?」

「兄貴さあ、金城先生から連絡あった?つーか狙ってんの?」

兄の表情が強張った。幸子はニヤリとほくそ笑む。

「個人面談の日、私保健室にいたんだよねー」

「お前まさかっ」

「芹沢一が来て焦って逃げてった兄貴、究極にダサかったんだけど」

兄は左の掌で顔を覆うと「マジかよ」とため息を漏らした。

「何で逃げてったの?やましいことがあったから?」

幸子は気になっていたことを聞いた。
あの日、幸子からは見えなかった芹沢一の表情を兄は見たはずだった。

芹沢一がどんな顔をしていたのか知りたい。

まさか本気で小説の登場人物とあの二人が同一人物だと思っているわけではないけれど。
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