サイレント
「なんでって、生徒に女口説いてたってバレたら面倒だし」

兄は罰の悪そうな顔で床を見つめた。

「しかも、金城先生からは一切連絡なしっ!」

ぐああ、と急に呻いて胸を押さえる兄の背を幸子は足で蹴った。

「兄貴のことなんかどうでもいんだって!芹沢一は!?どんなだった!?」

「は?芹沢?何お前あいつに惚れてんの?」

「違う!!」

「んな全力で否定しなくても」

幸子は右足を上げていつでも兄の頭に蹴りを入れられるよう構えた。

「女の子がはしたない」

「女の子とかキモイこと言うな。で?芹沢一はどんな顔してたの?」

兄は蹴られないように幸子の右足を捕まえると、観念したように口を開いた。

「どんなって、まあ、普通?あいつって普段から何考えてっかわかんないじゃん?まあダチといる時笑ってんのは見るけど、俺ら教師に対しては表情ねえし。ハーフだっけ?二年にしちゃでかいから目立つよな」

兄は先程からしゃべりながら幸子の足の指を点検するように触っている。
一本一本指を触られるのは不本意ながら気持ちがよかった。

「……なーんだ」

幸子はがっかりした。
芹沢一が兄を睨み付けるなり威嚇するなりしてくれればおもしろかったのに。

普通の顔じゃ妄想のネタにもならない。
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