サイレント

three

初めて足を踏み入れた県庁の一階のホールは馬鹿みたいに広かった。

隅に受け付けカウンターがぽつんとあるだけで、後はただっ広い空間が無駄に広がっていた。

さらにエレベーターホールにはこんなにいらないだろうと思うくらいのエレベーターが左右に並んでいて、一は何だか居心地の悪い思いをした。

県庁の最上階は展望室になっており、その一角にカフェがあった。

昨日の晩、急に電話をかけてきた父はそこを待ち合わせ場所に指定した。

一はカフェに入ると1番窓際の席に座ってコーラを注文した。
コーラなんて子供じみているかとも思ったが、コーヒーが嫌いな一にはオレンジジュースやカルピスを注文する度胸もなかった。

最上階なだけあってさすがに見晴らしがいい。

ここまで来るのに電車を乗り継ぎ、バスに乗った。

交通費くらい請求してやらなきゃ気が済まない。

とことん家庭をかえりみない男は待ち合わせ時間に遅れてやって来た。

「よう。何だまたでかくなったか?」

第一声がそれだった。
遅れて来といて「ごめん」の一言もない父に呆れ返る。

第一、ずっと放ったらかしにしていた息子に対してすまなそうな顔も出来ないことが信じられない。
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