サイレント
県庁を出た一は無性に樹里の声が聞きたくなり、公衆電話を探した。
一人に一台携帯電話を持つような時代になった今、公衆電話を探すのは苦労する。
いまさら県庁に引き返すのも煩わしい。
一は道端で公衆電話を探すのは諦め、駅へと急いだ。
小銭を取り出し、電話番号を押す。
樹里の携帯番号はすでに暗記してしまっていた。
プップップッ、という電子音の後に呼び出し音が続く。
「もしもし?」
間もなく眠たそうな、寝ぼけたような樹里の声がした。
「先生、俺」
「ハジメくん?」
名乗らなくても樹里はすぐにわかってくれる。
樹里は今まで一度たりとも間違えたことはなかった。最近では区別がつかないと近所の人間から言われる弟の声ですら樹里には全く違って聞こえるそうだ。
「先生寝てた?今家?」
「うん。久々に本読んでたら知らない間に熟睡してたみたい」
何だか子供が喋っているような口調になってしまっている樹里の声に一は思わず笑い声をたてた。
「先生、俺今M駅にいるんだ。迎えに来てよ」
一はそう頼んで一言「……会いたい」と付け加えた。
一人に一台携帯電話を持つような時代になった今、公衆電話を探すのは苦労する。
いまさら県庁に引き返すのも煩わしい。
一は道端で公衆電話を探すのは諦め、駅へと急いだ。
小銭を取り出し、電話番号を押す。
樹里の携帯番号はすでに暗記してしまっていた。
プップップッ、という電子音の後に呼び出し音が続く。
「もしもし?」
間もなく眠たそうな、寝ぼけたような樹里の声がした。
「先生、俺」
「ハジメくん?」
名乗らなくても樹里はすぐにわかってくれる。
樹里は今まで一度たりとも間違えたことはなかった。最近では区別がつかないと近所の人間から言われる弟の声ですら樹里には全く違って聞こえるそうだ。
「先生寝てた?今家?」
「うん。久々に本読んでたら知らない間に熟睡してたみたい」
何だか子供が喋っているような口調になってしまっている樹里の声に一は思わず笑い声をたてた。
「先生、俺今M駅にいるんだ。迎えに来てよ」
一はそう頼んで一言「……会いたい」と付け加えた。