エルドラドステージ
ケイコはアルカディアで生まれた純正のアルカディア人だ。武たちの調査によるとケイコの祖父はアルカディア建設に関わっていた。この国では職業は個人の能力に合わせて与えられるため、世襲をされることはなく、ケイコは果樹園をやりながらも植物研究者でもあった。
全ての人間に過度な労働を強いないため、ケイコのようにいくつも職業をまたぐ者も多い。アルカディアの食料は見かけはきちんと料理ではあるが実は外の世界と同様、大半をアトマイズに頼っている。無論、満腹中枢も誕生と同時に人工的に損傷させてある。つまり生産のための労働ではなく、人間の労働欲のためだけの労働なのだ。

「ねえ、外の世界ってどうなっているのかしら?」

ケイコの思わぬ発言に武はぎょっとした。ここに着いて数ヶ月、アルカディアの住人が外について口をついたのは初めてだった。外界に対する興味はバニッシュの対象となる…が、そもそも外界の存在を知っていること自体があり得ない話なのだ。

「外の世界って何?」

戸惑いを隠しきれただろうか。武はおそらくここの住人であれば言うだろう返答をした。
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