エルドラドステージ
「私たちが生きているのはこの環境があるからでしょ?広いとは言え、このスペースには限りがあるはずじゃない?そして限りの先にはまた別の世界があるんじゃないかしらと思うのよ。例えばほら、 空の上。」

ケイコは空に手をかざした。

「…ほら、上からエネルギーを感じない?もし私たちに空を飛ぶ能力があれば…私、きっと行くのに。」


そういえばアルカディアの空には何ひとつ飛び交うものがない。人工的なものはもとより、鳥や昆虫さえも。彼らは全て地を這い、本来果たすべき責務を放棄している。花粉や種の媒介という命を繋ぐ役割を。

それはこの国が巧みに用意した、人々に夢を抱かせないための操作だった。
三人も旅を続ける中で、何度 空を舞う鳥に憧れただろう。海を越えれば自由が、エルドラドがあるのではないかと。あの空の先にきっと何かがあるはずなのだと。


「夢物語だよ。たとえ外があったとして― そこが生物が生きて行けるとも限らないし。」

外の世界のことを話してはいけない。武にはアルカディアに課せられた一方的な約束を守らねばならない気持ちよりも別の感情があった。

アルカディアの人間を―ケイコを守りたい。


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