エルドラドステージ
流砂のように
【…さすらう者たちよ。
私の声が聞こえるか?】

直接、脳に響く声。
その声の主は目の前にいた。

耳には頭の中に響くほどの静けさの音だけが聞こえていた。

静寂の中に立つ「その者」の体には何十匹もの巨大な虫がその太い幹に尻尾を差し込み、体液を吸い取っている。

しかし、それはすぐに見間違いだとわかる。

蠢く虫に見えたのは体液を吸い取るどころか、もはや朽ちて自らの力で循環させることもできない体に充分な栄養を送るチューブだった。

頭の中に鳴り響いていた静寂は絶えず動き続ける機械の音。

その声の主は老いてはいるが、いやそれだからこそなおその存在を森中に示すほどの威厳ある巨大な樹だった。

章の中に痛みが走る。

老いさらばえた体にムチを打つような延命装置。この痛みは間違いなくこの樹のものだ。しかしこれは体の痛みなのか、心なのか。

< 34 / 57 >

この作品をシェア

pagetop