エルドラドステージ
その彼の、「静かな眠りに着いた時」をその時とするのは難しい。


彼の声が聞こえているのは章たち三人だけ。

しかもその声がハッキリと言葉で聞こえたのは、初めて会った時だけだ。

あとは彼の、機嫌がいいとか調子が悪いとか、そういった感情的な部分を受け止められるだけに過ぎない。

もしかしたらシュウには聞こえているのかも知れないが、−何にしろ判断できる人間が国宝を相手にするには少なすぎる。


ましてや新参者の彼らには、いつを彼の最期とするのかを決定するには難しい立場だ。


高性能装置を付けてしまったからには、もはや自然体での死を迎えることは出来ない。

装置を外した時が彼の最期の瞬間だ。


ずっと付けていればいい−

アルカディアの考えはこうだ。


しかしここ数日間で事情が変わった。


彼の身体は、注ぎ込まれる栄養を受け付けなくなったのだ。



循環装置を止めることは彼を意図的に殺すことになる。


しかし、受け入れもしない栄養を送り続ければ溢れた養分が弱った彼の幹を伝い、外側から腐らせていく。


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