愛のカタチ
だんだんと小さくなる賢司の背中が、一度も振り返ることはなかった。



しばらく、その場所に立ちすくんだ。




もしかしたら……


『真理』と言いながら、引き返してくるんじゃないかと思って…。




でも……


待っても待っても、賢司は現れなかった。







ようやく歩きだした頃には、だいぶ空も明るくなっていた。



家の前まで辿り着くと、どこをどうやって歩いてきたのか分からないほど、心は冷えきっていた。



通りを歩く人も、何やら不穏な空気を感じ取って、じろじろ振り返りながら見ていく。



でも、そんな視線もあまり気にならなかった。



バックの中に手を入れ、ゴソゴソと合鍵を探しながら門扉を開けた。



玄関の鍵穴に合鍵を差し込んでいるときだった。




「――何、してんの?」







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