愛のカタチ
「あっ、そうだ!来週、派遣の中西さんが会社辞めるから送別会があるんだ」
新聞をチェックする手が止まり、カウンター越しに声を掛けられた。
「あっ、そう。でも、飲むのもホドホドにしてよね」
刺を含んだつもりはない。
でも、拓也には、そう聞こえたらしい。
「俺だって、行きたくないけど仕方ないよ!営業部全体の飲み会だから強制参加だし……。おまけに、中華料理なんて食いたくもないのにさ」
うんざりだ、とでも言うような表情だ。
入れ替わりの激しい派遣社員。
そのたびに、歓送迎会をしているものだから、名前を言われてもピンとこない。
「じゃ、そういうことで。そろそろ行くわ!」
テーブルの上に広げた新聞紙を丁寧に畳み、紙袋にしまい込んだ拓也は椅子から立ち上がった。
玄関に備えられた大型の鏡で身だしなみを確認すると、黒のビジネスバッグと紙袋を手に提げ、「行ってきます」と、ドアをゆっくり閉めた。