ミドリハウス
はじまりはペンキ塗り
うちの高校には少々おかしいルールがある。

「三島! 三島たえ!」
「は、はい」
「今月5回目の遅刻ね。わかってると思うけど…君には奉仕活動をしてもらいます!」
「…は、はい、わかりました」
なんで昨日、携帯ゲームをずっとやって止められなかったのだろう…3時なんかに寝 れば7時に起きるなんていつもの私にできるはずないのに。
どうして私はこうも失敗ばかりなのか、そんな自問自答をする暇もなく次の選択肢を女性担任から突きつけられた。

――飼育小屋の掃除と老人ホームのボランティアと体育倉庫のペンキ塗りどれをやるか?

飼育小屋掃除は、汚い臭いとはいえ学内でできて、選ぶ人が多い分実はそこまで散らかってないのでほぼ短時間で済む故に一番人気だが、私は獰猛な赤いトサカ頭の生物が嫌いだ。
昔、家族旅行で地方のお城を見物した時に放し飼いのあれに散々追い回された。
まだ4歳だったが今でもあの恐怖は忘れられない。
故に私は鶏肉は食べても生きてる彼らの近くには可能な限り近寄りたくないのだ。

老人ホームのボランティア? 学校近所にある老人ホームに訪問しご老人方のためにお話したり歌を歌ったりする。そこまでストレスはないが貴重な土日の日中を使う。

体育倉庫のペンキ塗り? 現在老朽化が進み少々みすぼらしくなった体育倉庫の外壁と内壁にペンキを塗って、人件費タダで新品同様に甦らせるプロジェクトらしい。時間は決まっていて放課後1時間半から2時間。女子には余り人気がなく主に工作好きの男子が選んでるようだった。

「私は…」
現在、私は体育倉庫外周部分で、白いペンキ缶の中身をハケでぐるぐるとかきまわしている。
跳び箱やら平均台やらスコアボード、ボール類などのちょっとした体育用具を入れても3分の2くらいは中に余裕のあるスペースがある少し広めのプレハブ小屋。いつもは体育の時にちらっと見る程度で気にしてもいなかったが、外壁に寄り添うように間近で見れば確かに、塗装が剥がれて灰色と白のまだらのようになっている。
内壁を塗るのは、端まで置いてある体育用具を一度移動しないといけない手順を挟まないといけなくて面倒だからか、外壁から皆塗ってるらしい。既に長方形の建物の外壁4面のうち3面は白く塗られていて、私の仕事はどうやら外壁の最後の面だけでいいようだ。手付かずの内壁は申し訳ないが次の人の仕事になりそうだ。

飼育小屋は絶対嫌で、ボランティアは土日を潰すから同じく嫌で、最後に消去法的に残ったのがこのご奉仕だったけれど、ペンキ塗りなんてやったことがない。先生からペンキとハケを受け取り、下校最終時間までには返してねと言われとぼとぼとこの体育館横の倉庫まで来たけれど、全くの素人の私が適当に塗っていいんだろうか。他の面を見ると比較的綺麗に塗られていてその完成度は意外に高い。
女子が誰も選んでないわけが今更にわかる。一人で誰も聞けないなか女子一人でこんな大仕事を成し遂げるのはなかなかにハードルが高い。
とはいえ、もう後には引けない。出来映えには目をつぶってもらおう。取り敢えず何も考えず壁の真ん中の上当たりから大きくハケを滑らせた。

「あ、端からやればよかった」

やっぱり私は要領が悪い。



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