幼なじみが、先生で。


呼び止めたいのにどうしても上手く声が出ない。


わたしの横をすり抜けて、振り返ることもなく芹澤くんは行ってしまう。

遠くなる背中をただ眺めていることしかできない。


雨の中、傘も持たない芹澤くんをここで見てい
るだけでいいの?


だめだよ。


待って、行かないでって。

言わなきゃ何も伝わらない。


ただ手を伸ばしたって、芹澤くんが気づいてくれるわけがないじゃない。




「ーーー芹澤くんっ……!」


いつもなら必ず避ける水溜りも気にせずに、バシャバシャと真っ直ぐ駆け抜ける。


「待って!」と何度叫んでも、振り向きもしなければ止まることもない。



もしかしたら、わたしの顔なんて見たくないのかも。

そっとしておいてほしいのかも。


だけどそんなのはわたしの勝手な推測で、本心かどうかなんて芹澤くん以外わからない。


勝手な理由で諦めるくらいなら、芹澤くんの言葉を聞いてからにしたいの。


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