幼なじみが、先生で。
「……はっ、なんだよそれ………」
いつもより低い声で、芹澤くんは言う。
「意味わかんねぇよ……」
ポツリと言葉を零してから、1歩、また1歩とわたしの前を歩いていく。
雨がまた芹澤くんの身体を濡らして、思わず傘を向けたくなるのを必死に堪えた。
激しく降る雨の中、たった一度きりの芹澤くんの想いが落ちる。
「ーーーー有紗、大好きだったよ」
雨音に紛れた芹澤くんの大切な想い。
雨で流してしまうには勿体無いくらいの気持ちだ。
芹澤くんが必死で大切にしてきた恋。
神崎先生にも、もっと知ってほしかった。
芹澤くんがどれだけ神崎先生を想っていたか。
どれほど、好きだったのか。
わたしの隣で見てほしかったの。
ここから見える芹澤くんの後ろ姿はとても寂しそうで、つい抱きしめたくなってしまうほど。
でも、そんなことできるはずもなくて、グッと足に力を込めて気持ちを抑え続けた。
芹澤くんはこれからちゃんと前に進む。
それじゃあ、わたしは?
人の背中を押すだけで、自分は立ち止まったままでもいいのだろうか。
「大好き」が「大好きだったよ」と叫べるようになるのかな。