幼なじみが、先生で。
「おぉ、辻宮」
「そっ………桐生…先生…」
職員室から出てきた蒼ちゃんに偶然出会ってしまった。
蒼ちゃんに“辻宮”と呼ばれるのは未だに慣れない。
そしてわたしが桐生先生と呼ぶのも慣れない。
たったこれだけなのに距離を感じてしまうもの。
蒼ちゃん……いつもと変わらないな。
わたしはこんなに悩んで焦っていたというのに蒼ちゃんは顔色ひとつ変わってない。
平然とわたしに声を掛けたし、きっとあの日の出来事なんて日常生活のほんのわずかな記憶にしかすぎないんだ。
「まだ帰ってなかったのか」
「は、はい。探してる人がいて…………」
「探してる人?」
「芹澤くんです」
持っていた生徒手帳にぎゅっと力を込めた。
そうだ、蒼ちゃんは芹澤くんのクラスの副担任。
何か知っているかもしれない。
気まずいだなんて言ってられないよ。
早く生徒手帳を渡したいもの。
そう思ったら言葉になるのは早かった。