幼なじみが、先生で。
*
教室に1番近い女子トイレのドアに張り付き、ある人物の動きを監視していた。
近いとはいえ、少し離れたこの場所からでもあの人の後ろ姿ははっきりわかる。
スタイルがいいとここまで目立つものなのだろうか。
「海里いるか?」
ここからでも声ははっきりと届いた。
「きゃっ!芹澤くん!?………えっと辻宮さんは……居ないみたい」
「おー、そっか」
くるりと芹澤くんが後ろを向き、わたしの教室から離れていく姿をじっと見つめていた。
「………もう行ったかな」
まったく……なんでわたしは毎時間トイレに逃げ込まなきゃいけないんだ。
今日は何回ため息をついたんだろう。
両手だけじゃ足りないくらいになったとき、数えるのを諦めたくらい。
朝の一件があってから芹澤くんは授業が終わるたびにわたしのクラスに来ていた。
当然のように芹澤くんが教室に来ると女子からは大きな歓声。
それを合図にわたしは猛ダッシュでトイレへと走る。
何度も同じことを繰り返し、ようやく昼休みを迎えたばかり。
お弁当を片手になんでわたしはトイレに居なきゃいけないのさ。
早く中庭にでも行こう。
本日数十回目のため息を吐いてから、見つからないように静かにトイレを出た。