好きってきっと、こういうこと。
2*渡したくないものだってある
外回りが終わった渡辺が戻ってきたのは、就業30分前だった。
第一営業担当の詳しい業務内容をマニュアルを見せながら相村くんに説明していたあたしは、キリのいいところで説明をやめて、渡辺に話しかける。
「お疲れ様。今日、あたしの新規契約代わりに行ってもらってごめんね。ありがとう」
「別に、なんてことない」
そう答えた渡辺はあたしに目を合わせてくれなかった。いや、いつも合わせてくれないんだけどさ。
なんか今日は、冷たい気がする。
「わたな――」
「ごめん、今から塚田課長に今日のクライアントのことで相談があるから。お前も新人指導中だろ?私語は慎めよ」
そう言い残して、渡辺はデスクを離れてしまった。
……なんなのよ、渡辺。急に態度が変わってるじゃん。あたし、何かした?
少し気持ちが沈んでしまったけど、顔をブルブルと横に動かし平常心を取り戻したところで、再び相村くんに向き合った。
「ちょっと話しちゃってごめんね!じゃ、今から続きを――」
「あれですね。俺って、渡辺さんに嫌われてますね」
「え?」
説明を再開しようとしたところで、ポツンと相村くんが言葉を落とした。