好きってきっと、こういうこと。
「違うよ?嫌われてるのはあたしの方だから。渡辺の同期のくせに全然仕事が出来なくて、きっと呆れられてるんだよ」
冷たい渡辺のことを思い出して寂しい気持ちになるけど、仕事が出来ないあたしが悪いからしょうがないと自分に言い聞かせる。
「本当に、そうですかね?」
「相村くん?」
「渡辺さん、俺には目を合わせてくれないどころか、話しかけても貰えないですよ」
「それは渡辺がそんな奴だからしょうがないんだよ。それに今日来たばかりだし。嫌な想いさせてごめんね」
困り顔で微笑むと、相村くんはマニュアルを片付け始めた。
「はなさん。今日はもう休んでください。俺ははなさんが壊れそうで心配なので」
「え、でも……」
「はなさんの丁寧な説明のおかげで、来週からやらないといけないことは雰囲気だけ掴めました。また月曜日、詳しいことは教えてください」
相村くんはそこから、一言も話さなかった。
右隣の渡辺の席はまだ空いているまま。まだ塚田課長と話し込んでいるみたい。
なんで金曜日にこんなモヤモヤした気持ちを抱えないといけないの?それに追い打ちをかけるように予定されているのは、渡辺との飲み会。
用事が出来たって言って逃げ出そうかと回避策を考えている間に、渡辺が戻ってきてしまった。席にいなかったら、このまま帰ってやろうかと思ってたのに。
この息が詰まる空間から抜け出すことの出来ないまま、時計の針は定時を迎えた。