好きってきっと、こういうこと。

気が付けばあたしと渡辺の間にはさっきみたいな険悪な雰囲気なんてなくて、いつものブラック渡辺があたしを苛め抜いているという流れになっていた。

身長が150センチしかなくてヒールでごまかしていることを渡辺は知っているため、あたしのことをチビとからかってくる。

あたしだってやり返したいけど、身長が180センチ近くある渡辺をからかうことが出来ない。それ以外にも仕事、頭の切れ、すべてがあたしよりも出来る人のため、もはやネタがないのが現状。


ああ、悲しい。

そんなやりきれない気持ちを抱えながら渡辺に連れていかれたのは、意外にも会社から徒歩5分くらいにあるアンティークなワインバーだった。

会社の近くにこんなに素敵なお店があるなんて。なんで気が付かなかったんだろう。

確かに、ここはカップルがデートで使ったり、女子会で訪れるような雰囲気のバーだから、渡辺ひとりで来れなかったというのも頷ける。


店内に入ると、カウンター席はもちろんふかふかのソファー席もあり、なかなかリラックス出来そうな空間で安心した。

生憎ソファー席は全て埋まっているらしく、あたしと渡辺はカウンター席に通される。


「内海、何飲む?」

「うーん、そうだなあ。じゃあシードルにしようかな?」

「了解。じゃあ俺はこの本日のオススメ赤ワインにするわ」


ワインと料理をパパッと渡辺が店員さんに頼むと、ふたりの間に一瞬沈黙が広がった。

やっぱり色々話し込むのはワインが来てからかな?と思っていると、急に渡辺があたしのほうを向いてきた。


何故か、眉間にシワを寄せた状態で。

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